サプライチェーンの「ブルウィップ効果」を防ぐ三つの方法

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今、世界中で話題を呼んでいる「ブルウィップ効果」の影響で、リーダー陣はアプローチの見直しを迫られています。

ブルウィップ効果とは、サプライチェーンにおける急激な需要増加に過剰に反応してしまう現象であり、過去のデータを利用した需要予測には限界があるということを関係者全員が改めて実感するきっかけとなりました。ブルウィップ効果の概要を確認したい場合は最初のセクションから、サプライチェーン業界がこうした現状に陥った経緯について知りたい場合はその次のセクションから読み進めてみてください。
 

ブルウィップ効果の簡単な歴史

1980 年代、P&G 社の経済学者がブルウィップ効果を確認し、小売業者が急激かつ一時的な需要増加に過剰反応し、サプライチェーンを動揺させて長期的な影響を引き起こす現象だと説明しました。サプライチェーン管理におけるブルウィップ効果は「鞭効果」としても知られ、消費者需要の変動に応えて在庫が急激に増加するリスクのことを言います。
 

ブルウィップ効果の定義

サプライチェーンにおけるブルウィップ効果を理解するために、消費者需要がその「鞭」の持ち手であるとイメージしてみましょう。需要が増えると鞭が振られ、徐々に振れ幅を大きくしながら、在庫やリード タイムにもその揺れが伝播していきます。サプライヤーは急激な需要の増減に対処しようと奮闘するため、サプライチェーンをさかのぼるごとに需要の変動幅がますます大きくなります。予想外にリード タイムが長くなることで顧客需要に対応することが難しくなり、運転資本の管理も困難になります。

リード タイムを固定し、より正確なプランニングを行うことで不要な損失を避けることは可能です。しかし、サプライチェーン全体の問題は各段階でリード タイムが延びる要因となり、消費者需要への対応がさらに難しくなるうえに、より問題の大きい在庫変動を引き起こす可能性もあるのです。
 

ブルウィップ効果が広がった経緯

新型コロナウイルスの感染が拡大した 2020 年、多くの人々は家で仕事をし、移動や社交活動には制限が設けられました。それまでコンサートや映画、外食や人との接触があるその他のエンターテインメントに使われていたお金は、家庭で使う日用品、テイクアウトやデリバリーの食事、食料品などのより実用的な商品/サービスに充てられるようになりました。パンデミック初期に見られた歴史的な消費者支出の変化は、世界中のサプライチェーンに予想外の影響を及ぼし、急激な変動をもたらしたのです。米国国勢調査局は、2020 年 1 月から 2021 年 1 月にかけて、小売業およびフード サービス業が前年比で 19 %以上増加したと報告しています。

その結果、e コマースで Amazon との競争に注力してきた大手小売企業では、売上が低下しているにもかかわらず一定量の供給が続き、長期にわたって在庫が膨張しています。国内の倉庫の多くは在庫で溢れかえり、収容能力の余裕が 1 %に満たない倉庫もあります。小売の巨大企業では、需要が減少しているという報告を受けながらも、パンデミックで染みついた「念のため」という思考が拭えないまま、ホリデー シーズンを前に倉庫一杯の在庫を抱えています。そんな中、CNBC は倉庫使用料が前年比で 20 %跳ね上がったと報告し、収益の落ち込みに苦しむ各企業を、まさに完璧なタイミングでコストと負債の嵐の中に引きずり込みました。

米国では、パンデミックに対する 5 兆 8000 億ドルもの経済支援に支えられて、記録的な規模で支出が増加しました。この支出が需要変動を引き起こし、世界中のサプライチェーン リーダーが今も対処しようと奮闘している新たな問題を生んだのです。食料品や日用品の棚がほとんど空っぽになった、あの衝撃的な映像を思い出してください。棚が空になると、小売企業はリスクを承知のうえで、一時的な需要の変動を長期的な変化と解釈したくなるのです。

再び棚が空になる恐怖、そして、その結果として需要変動に過剰に反応してしまう心理を理解するのは難しくないでしょう。流通業者が、急速に増加する小売店からの注文に対応するため、実際の需要の有無に関わらず、製造業者に対して大規模な、注文量を 10 ~ 25 %増加させるような、新規注文を早急に行うこともあります。

近年見られるこうした消費者需要の大幅な変化から、過去のデータと予測データをバランスよく活用した正確な需要予測と価格設定の必要性が浮き彫りになりました。コロナ禍が落ち着くと、ライフスタイルの変化や終わらないインフレ、そして迫りくる不況への脅威から、それまでの需要の急上昇が嘘のように消費者支出の規模は突然縮小を始めました。Walmart 社のような大手小売企業は、返金時にも商品の返品を受け付けていません。高いコストのかかる棚のスペースが在庫で埋まり、容量が急速に減っていくことを考えれば、損失を食らうほうがましだからです。

しかし、いいニュースもあります。コロナ禍のさまざまな制約が解除されるにつれて、小売店は再び店を開け、従業員もハイブリッドワークの形で業務に戻ってくることができました。これに伴い、ブルウィップ効果にも収束の兆しが見えてきたのです。今重要なことは、記憶が薄れる前にこの経験をもう一度振り返り、同じことが繰り返されることのないよう準備をすることです。
 

サプライチェーンの耐性を強化してブルウィップ効果を防ぐ

今こそ、サプライチェーンのデータ、分析、プランニング、そして予測機能を見直す時です。次の鞭の一撃からサプライチェーンを守る三つのベスト プラクティスを紹介します。

1. 在庫管理および計画を最適化して方向性の変化に備える

常に変化を続けるこのデジタル時代にビジネスの競争力を保つには、在庫計画と管理の最適化で高いパフォーマンスを発揮する必要があります。サプライチェーンの混乱が絶えない「ニューノーマル」の市場を生き抜くには、過去のデータだけでは不十分なのです。データに基づいて柔軟に方向性を変え、需要検知を含む「what-if」シナリオに基づいて計画を立てて短期的な傾向を特定しましょう。「what-if」シナリオ計画でさまざまな変化要因を計算に組み込むことで、各拠点で必要な在庫量を正確に予測し、潜在的な混乱を引き起こす要因や、それによる在庫および生産計画への影響をモデル化することが可能です。不測の事態にも迅速に対応できるよう準備をしておくことで、ブルウィップ効果を最小限に抑えることができるのです。

2. コミュニケーションやサプライヤーの連携の問題点を解決する

組織や供給網におけるコミュニケーション不足が問題の原因となっているとしたら、それは組織だけが抱える課題ではありません。サイロ化された組織体系は未だに多く見られ、しばしばブルウィップ効果を引き起こす原因となっています。今こそ、効果的な行動を取るべき時です。

調達部門と購買部門におけるサプライチェーンの連携を強化することで、正確な意思決定が促され、サプライヤー エコシステム全体にメリットがもたらされます。これにより、将来の混乱にもより柔軟に対応することが可能になります。サプライヤーの連携が実現すれば、需要予測をリアルタイムで継続的に最適化する機能も強化されます。まずは、製品がたどる一連のプロセス、つまり、原材料に始まって消費者に届くまでの道のりに改めて注目しましょう。最もコスト効率の高い方法で目標を達成できていますか?

3. サイロ化されたサプライチェーン計画を一新する

今やサプライチェーン計画は、ほんの 10 年前に考えられていたように、コスト削減戦略を補完するものではないことに、企業は既に気づいているでしょう。また、サプライチェーン計画に対する社員の期待もますます大きくなっています。Walmart 社のような小売の巨大企業がサプライチェーンへの投資に力を入れているのはそのためです。しかし、ただ投資するだけでは十分ではありません。スプレッドシートを用いたサイロ化された方法や、人的ミスが起こりやすい BI ツールを使用していては社内の連携を実現できません。そうしたプランニングでは、サプライチェーンや企業の最終利益にも悪影響が及びます。

競争力を高め、需要の急上昇による混乱に対応していくためには、サプライチェーン、財務、営業、購買、そしてその他の主要なオペレーション部門で足並みを揃え、データを統合することが重要です。統合事業計画 (IBP) が実現されると、ビジネス全体でデータの可視性が向上します。関係者はさまざまな課題に先手を打って対処し、ブルウィップ効果などの問題の発生を防げるのです。サプライチェーン計画、営業計画、そして業務計画を連動させ、連携とパフォーマンスを一気に加速させましょう。

ブルウィップ効果を回避し、受け身の体制から抜け出す

将来のシナリオ プランニングを組み込んだ予測方法を取り入れることで、サプライチェーンにおけるブルウィップ効果の長期的な影響を回避することが可能です。こうした手法は、過去の傾向やデータに留まらないインサイトをもたらし、あらゆる情報を繋ぐことでビジネス全体のデータの可視性や連携体制を向上させます。正確なデータと適切な計画アプローチがあれば、ダイナミックな需要の浮き沈みを理解し、ほぼリアル タイムで状況に対応することが可能です。こうした体制が整って初めて正確なプランニングが可能になり、常に計画をアップデートできるよう、臨機応変な「what-if」シナリオ機能を備えた IBP ツールの導入を検討できるようになるのです。

それこそが Anaplan プラットフォームの魅力です。人工知能やその他の最先端ツールを備えた Anaplan プラットフォームなら、ビジネス全体を繋ぎ、すべての情報を駆使して在庫計画を合理化するプロセスも、骨の折れる作業ではなく、当たり前の日常業務にしてしまうのです。ブルウィップ効果を回避する最適な方法をお探しなら、Gartner 社 Magic Quadrant「サプライチェーン プランニング部門」でリーダーに選出された Anaplan のソリューションをご確認ください。

サプライチェーンと統合事業計画に関するインサイトを活用する