収益部門を支える管理会計の仕組みに課題
アモーヴァ・アセットマネジメントは、多様な国籍の社員960名を擁し、13の国と地域でビジネスを展開する資産運用会社だ。
近年、資産運用業界は大変革の中にある。政府が掲げる「資産運用立国実現プラン」と新NISA制度により投資資金は大きく増加したが、大部分が低価格のパッシブ型ファンドに集中し、価格競争が激化。運用力や提案力の強化に向けた人材・AI・DXへの先行投資や、オルタナティブ分野など投資機会の多様化への対応が不可欠となっている。
「ビジネス部門が戦略をドライブするために、それをサポートする財務企画部では、データに基づく説得力のあるソースと、商品単位での原価把握が必須だと考えました」と財務企画部長の池田 俊一 氏は語る。
従来の管理会計の仕組みではサポート部門の経費配賦が不完全であったため、各収益部門は貢献利益で評価していた。その結果、貢献利益の合計が会社全体の営業利益と一致しないだけでなく、各収益部門が高収益体質と錯覚し、部門責任者のコスト意識も高まらなかった。
商品単位での真の収益性を可視化
同社が新しい管理会計で目指したのは、商品の損益・運用状況を正しく測定すること、部門活動における真のオペレーティング・エコノミクスを把握すること、様々な意思決定に分析フレームワークや基盤を提供できることの3つ。しかし実現するには、1,000を超える商品に対して、複雑な間接費配賦ロジックを即時計算できる処理能力が必要だった。
「多数の商品に配賦するためのルールを自由に設計でき、複雑かつ大量なデータを処理できるメモリや、開発後に自分たちで保守できるノーコード・ローコードという特性から、Anaplanが最適なツールだと判断しました」
新しい管理会計のプロジェクトは日常業務と並行して進められ、2023年10月からの8ヶ月間で新管理会計の構想策定とルール定義を固めた後に、2024年6月からの9ヶ月間でシステム構築作業が完了した。完成したシステムでは、精緻な間接費配賦ロジックを実現し、会社、部門、費用項目の3つを組み合わせ、活動基準に基づいて「日本の株式運用部の固定給与」「英国法務部の業務委託費」といった合計300以上のコストプールを定義。さらに複雑なパターンも割り当てられ、多段階配賦では、あるファンドに一度配賦した後、そこに投資している別のファンドに配賦し直す処理を実現した。時間差配賦では、新規顧客獲得にかかる費用を、ハンティング・アクティビティとして既存商品への配賦を避け、商品組成完了時点から配賦を開始するロジックを組み込んだ。より精度を高めるためCRMツールとの連携も模索中だ。
さらに、単一だった評価軸に6階層のマージンを設定。営業収益から変動費控除後利益、ファンドマネージャー経費控除後利益など、目的に応じた評価や業界ベンチマークとの横軸比較も可能になった。システムから5タイプのレポートを出力でき、会社全体のKPIサマリーレポートから、収益、残高、経費といった分析軸で各商品へドリルダウンできる。
データドリブンの手段を具現化し経営に貢献
Anaplanによる新しい管理会計システムの導入で商品ごとの収益構造が可視化され、打ち手が明確になったほか、計算処理が高速化したことで、質問を持ち帰ることなく、その場で根拠ある数値を提示できるようになった。
「事前の仮説と異なる収益性を示す商品も一定数存在し、それを報告して軌道修正につなげることができました。Anaplanによる新管理会計で、経営層や各部門に多くの気付きを提供し、データドリブンでの意思決定が行われています」と池田氏は成果を強調する。
同社はさらにデータドリブンな意思決定を加速させるため、この新しい管理会計システムを基盤に、プロダクト領域、人事領域、営業領域での拡張モデルも展開。これまでの管理会計の高度化は、高成長を支える事業戦略への貢献を目的としたPL(損益計算書)サイドであったが、今後はリターンを意識した戦略投資や安定した株主還元などのBS(貸借対照表)サイドにもAnaplanを導入し、さらなるROE向上を目指す方針だ。
「FP&A領域では、すべての機能をAnaplan中心に設計していきたいと考えています」と池田氏は語る。